鼻をかんでいる女性と薬
お知らせ
    病原体

    インフルエンザの治療薬として用いられている抗ウィルス薬として、主にタミフル、リレンザ、イナビルの3つがあります。
    タミフルのみ経口投与で服用し、他の2つは気道に直接吸入します。
    いずれの薬もインフルエンザウィルスが気道で増殖するのを防ぐ効果があり、治癒までに要する日数を短縮することができます。

    かつて、タミフルを服用した子供のインフルエンザ患者が精神異常や異常行動を起こしたことが報告されました。
    そのため、タミフルには脳に何らかの影響を与えて異常行動を誘発するという副作用が疑われたことがあります。
    ところがその後の調査で、吸入式のインフルエンザ治療薬を投与された患者でも同じように異常行動があったことが報告されています。

    抗ウィルス薬を服用したインフルエンザ患者の異常行動についての調査が行われていますが、治療薬を使用しない場合でも高熱の影響による異常行動が報告されています。
    その後もインフルエンザ治療薬に関する研究が進められていますが、薬に含まれる成分が脳に何らかの影響を及ぼしたという証拠は得られていません。

    リレンザ服用により異常行動が起こるのか?

    リレンザもインフルエンザウィルスが気道で爆発的に増殖するのを防ぐ作用を持つ抗ウィルス薬です。
    リレンザの場合はインフルエンザウィルスが増殖する気道に直接薬剤を送り込む必要があるため、経口投与ではなく吸入式で服用します。
    1日2回吸入を行い、5日間にわたり服用を継続する必要があります。

    これに対してタミフルは経口投与するため、有効成分であるオセルタミビル(oseltamivir)は血液を通して全身に移動します。
    タミフルの成分であるオセルタミビルまたは代謝物が、脳に影響を及ぼす可能性が指摘されたことがあります。

    経口投与で服用するタミフルに対して、吸入式で気道に直接薬剤を送り込むタイプのリレンザは患部(気道)にのみに作用し、血液を通して全身に運ばれることはありません。
    このため副作用が起こりにくく、安全性が高いとされています。
    ただし、リレンザは患部に薬剤が行き渡らないと十分な効果を発揮することができません。
    そのため、リレンザは吸入に慣れていない子供の患者に使いにくいという欠点があります。

    吸入式のリレンザは、飲み薬として服用するタミフルのように血液を通して薬剤が脳に運ばれる可能性が低く、異常行動などの副作用が生じることはない考えられていました。
    ところがリレンザを投与された子供のインフルエンザ患者の一部にも、タミフルと同じように異常行動が報告されています。

    リレンザを投与された子供の患者に見られた異常行動の内容ですが、うわ言のように意味不明の言葉を発する軽度のものから、実際に何らかの行動を起こすケースもあります。
    就寝時や覚醒直後に異常行動が起こるケースが多く、基本的にタミフルが投与されたインフルエンザ患者の異常行動と全く同じです。
    多くの場合、異常行動を起こしている本人は後で覚えていないことが多いです。
    突然走り出したり、飛び降りなどの重度の異常行動を起こした例も報告されています。

    リレンザでも子供の患者が異常な行動を起こした例が存在するため、タミフルは異常行動を起こすがリレンザは大丈夫、などと考えることはできません。
    リレンザを服用したインフルエンザ患者でも、タミフルの場合と全く同じような異常行動や精神異常などが起こることが数多く報告されているからです。

    しかし本当にその異常行動がリレンザによるものなのか

    リレンザを服用した患者で異常行動が起こるのは十代前半までの子供がほとんどで、十代後半や大人の患者には見られません。
    リレンザを服用した患者と服用しなかった患者で異常行動の発生率に有意な差が認められないため、現在はリレンザの成分が脳に何らかの影響を及ぼしているという考えは否定されています。

    リレンザを投与された患者が何らかの異常行動を起こすのは、インフルエンザ発症後48時間以内に集中しています。
    3日目以降になると異常行動の発生報告が激減します。
    高熱を発している間に、脳が一時的に異常な状態になる事が考えられます。

    インフルエンザは発症してから最初の2日間に高熱のピークを迎えます。
    3日後以降になると免疫の働きにより体の中のウィルス数が減りはじめ、これに伴い少しずつ熱が下がってきます。
    インフルエンザウィルスの増殖を抑える効果があるリレンザは、発症後なるべく早く投与する方が高い効果を発揮します。
    つまり、リレンザの投与を開始する時期と高熱のピークを迎える時期が重なっていることになるのです。
    子供のインフルエンザ患者が発症直後に高熱のピークを迎えて熱による影響で異常な行動を行う可能性が最も高い時と、リレンザの吸入を開始する時期が重なることで、「リレンザを投与した直後に子供の異常行動が発生した」と誤認されているのです。

    ちなみに予防目的でリレンザを服用するケースもありますが、健康な人が吸入した場合には副作用は報告されていません。
    この事からも、薬の影響で脳に何らかの異常が発生することはないと考えられます。

    タミフルを服用することで起こる異常行動とは?

    インフルエンザの治療薬としてタミフルが処方され始めた頃に、タミフルを服用した子供の患者が異常行動を起こした、という報告例が注目されました。
    そのため、タミフルに含まれる成分(オセルタミビル)または代謝物には、脳神経を興奮させる副作用があるのではないかと疑われたことがあります。

    タミフルは飲み薬なので、治療期間中(合計5日間)は薬に含まれる成分が血液を通して全身に届けられます。
    そのため治療中は、タミフルの成分であるオセルタミビルが多くの臓器で検出されます。
    脳にも血液を通してオセルタミビルが運ばれて、神経細胞に対して何らかの影響を及ぼすことによって異常行動の原因になる可能性が指摘されたことがありました。
    ところがオセルタミビル分子は、脳に血中の多くの成分が届かないようにするための「血液脳関門」を通過することができません。
    そのため、タミフルに含まれる成分が脳の神経細胞に何らかの影響を及ぼす可能性は極めて低いのです。

    インフルエンザは高熱を発するため、一時的にタミフルの成分が血液脳関門を通過しているのではないか、と考えた研究者もいました。
    タミフル服用後に異常行動を起こして4階から飛び降りて死亡した中学生のインフルエンザ患者を調べた結果、体の多くの臓器からはオセルタミビルが検出されましたが、脳からは成分が全く検出されませんでした。
    このため現在では、オセルタミビルが血液脳関門を通過して脳の神経細胞に何らかの悪影響を及ぼすという考えは否定されています。

    タミフルを服用したインフルエンザ患者の異常行動には、意味のない言葉を発する程度の軽度なものから、突然暴れる、走り出す、マンションから飛び降りるなどの重度のものに至るまでさまざまです。
    精神異常や異常な行動は十代前半の子供の患者に多く見られ、十代後半以降の患者では報告例は非常に少なくなります。
    異常な行動が報告される時期ですが、インフルエンザの発症後48時間以内の高熱や息苦しさなどの症状を発症している期間に集中しています。
    発症後3日目以降になると、異常行動の報告は例は少なくなります。

    ちなみにタミフルやその他の抗ウィルス薬を服用していない子供のインフルエンザ患者にも、同じような異常行動が報告されています。
    治療薬を服用していないグループでも高熱などの症状を発症してから48時間以内に異常行動が認められたケースがほとんどで、高熱が原因で脳の機能が一時的に異常をきたしていると考える方が妥当です。
    異常行動の内容や年代、発生時期・発生率なども、タミフルを服用した患者の場合と全く同じです。

    タミフルで異常行動が起こると思われる理由

    治療目的でタミフルを使用する際は、インフルエンザの発病後48時間以内のなるべく早い時期に開始する必要があります。
    抗ウィルス薬は、ウィルスが体の中で増殖している間に投与しなければ意味がないからです。
    インフルエンザを発症していることが判明する頃には40度近い高熱が出ていて、子供の患者であれば異常行動を起こす恐れが最も高い時期です。
    リレンザと同じで異常行動が起こる可能性が高い時期と、タミフルの服用を開始する時期が重なることで、タミフルが原因で異常行動が起こった、と誤認される可能性があります。

    別の報告によると、タミフルを服用した子供のインフルエンザ患者は、服用しなかったグループよりも異常行動の発生率が少なかったケースがあります。
    タミフルを服用することで治療期間が短縮して、高熱が出る日数が少なくなります。
    高熱が出る期間が短くなることで、異常行動が発生する可能性が減少したと考えることができます。

    タミフルの服用と子供のインフルエンザ患者の異常行動についての研究が進められてきた結果、タミフルを服用することが原因で異常行動が起こるのではなく、タミフルを服用した患者も服用しなかった患者と同様に異常行動を起すことがある事が判明しています。
    タミフルの服用開始時期と、インフルエンザによる高熱が原因で異常行動が起こりやすくなる時期が偶然重なっただけである、と言えます。
    予防目的で健康な人がインフルエンザの予防目的でタミフルを飲んだ場合は、副作用は何も報告されていません。

    イナビルと異常行動の例について

    抗ウィルス薬として、最近はイナビルも処方されるようになっています。
    イナビルもインフルエンザウィルスの増殖を抑制するための薬で、インフルエンザの症状が出始めた頃の早い時期に服用を開始します。

    イナビルもリレンザと同じように吸入式で服用します。
    リレンザは1日2回吸入を行う必要がありますが、1度の吸引だけで数日間にわたり効果が持続するという利点があります。
    イナビルは飲み忘れることがなくて手軽に服用ができるため、医療機関で使用されるケースが増えています。

    吸入式で患部である気道にのみ直接薬剤を送り込むイナビルも、経口投与するタミフルよりも副作用が少ないという特徴があります。
    血液を通して全身の臓器に薬剤が届けられることが無いため、脳の神経細胞に何らかの影響を及ぼす可能性は極めて低いと言えます。
    ところがイナビルを服用した子供のインフルエンザ患者でも、異常行動の例が報告されています。

    イナビルを投与された子供のインフルエンザ患者でも、タミフルを投与された患者と全く同じような異常行動を起こしたという例が報告されています。
    異常行動が発生する年代や発生時期のピーク(発病後48時間以内)、行動内容(精神的な異常や飛び降りなどの異常な行動)についても、タミフルの場合と全く同じです。

    経口投与式の薬であれば、何らかの原因で血中の薬剤が脳に到達して異常行動の原意になる可能性が考えられなくもないのですが、吸入式で気道にしか送られないイナビルが脳の神経細胞に何らかの影響を及ぼすことは考えられません。
    リレンザやイナビルの成分はタミフルとは全く異なるため、仮に薬に含まれる成分が脳に何らかの影響を及ぼすのであれば、薬ごとに違う症状が出るはずです。
    ところがいずれの薬でも全く同じパターンで異常行動が見られ、差異は認められません。
    この事からも、子供のインフルエンザ患者に見られる異常行動はインフルエンザ治療薬によって引き起こされる訳ではないと言えます。

    インフルエンザの薬とは関係のない熱せん妄

    インフルエンザ治療薬が使用されるようになる以前は、対症療法として解熱鎮痛剤(熱さまし)であるアセトアミノフェンが投与されたこともありました。
    アセトアミノフェンは一般的に生理痛や頭痛薬としても用いられるポピュラーな鎮痛剤です。
    実は解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェンを服用した子供のインフルエンザ患者でも、タミフルを服用した患者と全く同じような異常行動が報告されています。

    インフルエンザ治療薬やその他の薬の服用の有無に関係なく、インフルエンザやその他の病気で高熱を発症している子供の患者は何らかの異常行動を起こす可能性があります。
    高熱が原因で異常な行動を起こす症状のことを、「熱せん妄」と呼びます。

    熱せん妄とは、高熱によって脳が一時的に誤認識している状態のことを指します。
    例えば幻覚が見えたり、意味不明な事を言ったり、幻覚の影響などで急に泣く、などの症状が出る場合があります。
    熱せん妄は子供の患者に発症することが多く、インフルエンザ以外の病気でも起こる可能性があります。
    子供がインフルエンザで高熱が続いている場合には、タミフルやリレンザ、イナビルなどの服用の有無に関係なく熱せん妄によって異常な行動を起こす恐れがあるため、目を離さないようにすべきです。

    近年は抗ウィルス薬を用いることで、インフルエンザに対して直接的に効果がある治療を行う事ができるようになりました。
    従来は熱が下がるまで何もしないで待つしか方法がありませんでしたが、インフルエンザ治療薬を使用することによって治癒するまでの期間を短縮することができます。
    治療期間を短縮できればインフルエンザに伴う発熱も軽減されるため、熱せん妄による異常行動が起こりにくくなる可能性があります。

    異常行動を心配してインフルエンザの治療をためらうと、高熱の症状が続くことにより異常行動を引き起こす可能性が高くなってしまいます。
    インフルエンザであることが判明した場合には、すみやかにインフルエンザ用の治療薬を用いた治療を開始する方が、体への負担が軽くすることができます。

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